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 幼い頃、イルカは夕暮れ時が好きだった。
 アカデミーから、両親の待つ家へ帰る時間だからだ。母は外勤で家にいないこともあったが、父は受付などの内勤を主としていたので、家に帰れば誰かが自分の帰りを待っていてくれた。思う存分遊んだ後の帰り道、父や母と、どちらかが作った温かい食事が待っていると思うと、腹ぺこでも疲れ切っていても、心だけは満たされていた。
 時折は、日帰りの低ランク任務の帰りに母が迎えに来てくれて、買い物に出た父と一緒に家路を辿ることもあった。父母と並んで歩く夕方の数分はイルカの大好きな時間だった。父と母は仲が良くて、イルカの前でも堂々と手を結んで見せた。そして時折立ち止まり、沈んでいく夕日を眺めて肩を抱き合った。イルカは居た堪れないような気がしたものだったが、両親の笑顔や空いた手で頭を撫でてくれることがとても嬉しかった。両親は優しく、夕日は綺麗で、イルカはただそれだけで幸せだった。



 だが、その幸せな時間が失われたのは、皮肉にも夕日と同じ紅色によるものだった。
九尾の妖狐のチャクラは何故かは知らないが真っ赤で、巨大なそれが地に伏せていると、まるで落ちていく夕日のように見えた。里の外れに九尾が現れた頃、空が赤くなっているのを見て、夕暮れかとイルカは思った。切れ切れの雲や遠いところの空まで全て紅色に染まっていた。それを、何も知らないイルカは美しいと思った。
 イルカはその時の気持ちと、それから数十分後の気持ちを忘れたことがない。
 そして二度と、夕日を綺麗だと思うこともなくなった。





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