14


 夢を見た。

 まだ陽の昇らない、夜明け前の最も暗い闇の中だった。
 慰霊碑の前で俺は大切な人たちの名を呼んでいた。失えないほどに大切だったのに、もう戻ってこない人たちだった。
 夜は明けている筈なのに、朝はまだ来ない。永遠に来ないとさえ思えた。
 何度も何度も、名前を呼ぶ。応えはない。
 こんな思いはもう二度と御免だった。こんな思いをするのなら、もう誰ともあんな絆は作りたくなかった。

 しばらくして陽が昇り始めた頃、黒髪の少年が現れた。
 隣に立った少年は涙ぐんでいたが、すぐに気丈な表情を見せた。
 きっと俺と同じ気持ちなのだろうと思った。誰とも、絆は作らない。独りで生きていくのだ、と。
 しかし、違った。
 少年は俺に、火の意思について教えてくれた。
 火の意思を継ぐ者は、木の葉の里の皆と家族だと。

 少年は、臆病な俺と違って、誰とも絆を作らない所か、里の者全員と絆を作っていた。
 そうして少年は、満面に笑った。まるで、家族に対するように。






 少年の優しい声が聞こえてくるような気がして、耳を澄ませた。
 しかし、聞こえてくるのは、大勢の人が一度に話しているような、ざわざわという音だけだった。何なのだろう、と目を開けてみると、それは、頭上に広がる無数の木の葉の葉擦れであった。
 心地良い風が吹いている。数枚の葉が散って良く晴れた空に飛んで行った。綺麗だった。
 あの葉のように自分もあの少年の所へ飛んで行きたいと考え――

「――はたけ上忍!」
 呼ばれ、視線を動かす。白い忍服の医療忍が目に入った。
「ここは……」
 見回すと、あの街で目覚める前、任務を行っていた森だった。戻ってきたのか。
「動かないで。恐らく脳震盪とチャクラ切れです。搬送します」
 淡々と告げられて、担架に載せられる。
 妙な違和感を感じた。あの街にいる間、俺はきっと失踪者扱いだった筈だ。それなのに医療忍の態度は、単なる良くいる負傷者に対するものとしか見受けられない。何かがおかしい。
「俺は……どれだけ眠ってた?」
「そうですね……十分は経っていないと思いますが」
 あっさりと言われた言葉が信じられなかった。あの街で日数など数えてはいなかったが、数ヶ月は経っていただろう。
 身体が重い。頭が鈍く痛み、思考がはっきりしない。担架に背が沈み込むと、意識を保っているのが難しくなってきた。
 森は絶えず葉擦れが煩い。少し、砂が落ちていく音に似ていると思った。
「あれは――夢?」
 気絶に似た眠りに落ちながら、呆然と呟く。
 あの街は、イルカは、まさか、本当にただの夢だったのか?

Page Top