全てが終わった後、ヤマトは赤く腫れた目を拭うと、少し笑って、「ありがとう」と言った。
その顔が、またカカシと重なる。イルカはそれが拒絶のように思えた。こうやって、何も求めず、消え去ってしまう。
だからイルカは慌てて、ヤマトの手を取った。
「僕はもう、大丈夫」
ヤマトは言って、イルカの手を優しく握る。そして、始まりの時とは逆に、ヤマトが手を引いて、外に出た。
「貴方を必要としている人が他にいるんじゃないですか」
そう言って、手を離すと、暗闇の一点を指し示した。
そこに、カカシが立っていた。
それを見て、イルカが感じたのは、ヤマトとの行為への罪悪感や後悔などではなかった。ただ、悲しかった。
カカシは、責めることも嘆くこともない透明な瞳で、こちらを見ている。
自分が誰か別の人と過ごしていても、カカシは何も思わないのだ。何も言わず、何も求めない。必要となんて、されていない。
カカシはしばしイルカを見ていたが、不意に背を向けて歩き出した。未練も無さそうなその様子に、イルカの胸は痛んだ。
「どうするんですか」
ヤマトがそっと問いかけてくる。追うことも追わないことも出来るが、イルカには選べなかった。カカシが去りたいのなら、それを見送るだけだった。
そうイルカが言うと、ヤマトは、微かに笑んだ。
「なら――
言われて、イルカは唐突に気付いた。
カカシが好きだった。
それなのに今まで、自分はカカシに対して何か求めただろうか。望み通りにしたいと言いながら、カカシのすることを受け入れるだけで、何一つ行動しなかった。
それはカカシがしてきたことと同じだった。何も言わず、何も求めず、何も表わさなかった。
本当は――怖かったのだ。求めて、拒絶されるのが。
もしかするとカカシもまた、イルカと同じように悲しみ、恐れていたのかも知れない。
イルカには今までそれが分からなかった。
しかし、求め合うこと、必要とし合うこと――それが重要だと、今夜教えて貰ったイルカには、どうすれば良いのかもう分かっていた。求め合うのには、こちらからも求めなくてはならないのだ。
許されないかも知れない。信用されないかも知れない。しかしそれでも、伝えなくては何も始まらない。
「イルカさん。先輩は、貴方を愛していますよ。僕には分かる」
決意したイルカの背を押すように、ヤマトが言った。
「ヤマトさん、ありがとう」
そう言ってイルカが笑うと、カカシに似ていた筈の瞳が、見たこともない程晴れやかに笑い返してくれた。それを見届けてイルカは、カカシの所へと駆け出した。