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 カカシは己の部屋に帰り着くなり、脱いだベストを、ぞんざいに床に落とした。ぐちゃりと、重い水音がする。元々は白かったそれは全体が赤黒く染まっていた。もう使い物にならないだろう。
 疲労で重い足を持ち上げ、一直線にベッドに向かう。
 シャワーを浴びるべきなのは分かっていたが、もう限界だった。今すぐに眠りたい。汚れたシーツは装備と共に捨ててしまえばいい。

 ベッドに倒れ込もうとしたが、そこに朝の白い光が射し込んでいるのが見えた。奥の窓のカーテンが開いたままだったのだ。
 カカシは窓に近づいて、カーテンを掴んだ。

 自然と目に入った窓の外は、帰宅したカカシとは反対に、これから一日を始める人々がいた。
 すれ違う者たちが朝の挨拶を交わし、どこかで子どもの笑い声がした。遠くの家の庭で真っ白なシーツが風にたなびいている。穏やかで、平和な光景だ。
 窓枠に四角く切り取られたそれはちょうど、額に入った絵のようだった。

 カカシは顔をしかめ、強くカーテンをひいた。陽光は眩しすぎて、夜闇に慣れた目が痛んだ。
 習慣で結界を張ってから、落ちるようにベッドに腰掛ける。
 遮音をかけたので、人の声はもう聞こえなかった。分厚いカーテンのおかげで、室内は夜の始まりのように薄暗い。
 ただ僅かな隙間から射す光が、細く線を描いて、無造作に投げ出したカカシの足の甲を照らしていた。ほこりが舞い落ち、きらきらと輝く。床は足裏が痛むほど冷え冷えとしていたが、その光の帯のところだけは温かく感じられた。
 ぼんやりそれを眺めながら、カカシはふと思った。

 ――帰りたい。

 不思議だった。やっと帰ってきた自分の家で、何故そんなことを思うのだろう。
 馬鹿馬鹿しい。カカシは己を嘲笑ってから、眠るために横たわった。
 疲れ切った身体は休息を求めている。くだらないことを考える間もなく、すぐに眠れるはずだ。
 背がシーツに触れる。冷たかった。
 帰りたい、ともう一度思う。

 カカシは再び自嘲し、己へ問いかけた。
 ――一体どこへ?
 分からなかった。
 分かるはずがない。帰る場所など無いのだから。
 カカシは目を閉じた。漆黒の視界の中に、ただ血の匂いだけが漂っていた。



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