何が起こっているのか、分からなかった。
 今、俺の目の前で、木ノ葉の精鋭たる上忍が、里の誉れが、写輪眼のカカシが。
 ――ベッドから、落ちた。尻もちついて。

 ありえない。
 さすがに上手いこと落ちたのか痛めたところはないようだが、そもそも忍びがたかだか数十cmの段差から落ちて尻もちをつくことはまず無い。シュタッとカッコよく着地するか、タァンッとしなやかに受け身を取るものだ。
 おかしい。さっきまで、やらしく身体をまさぐりながら、くちゅくちゅ言わせて大人のキスをしていた人とは思えない。
 お互い服を脱ぎ始めた辺りからおかしくなった。そしてどこからか「は、はわ……」という声が聞こえた気がする――と思ったら、カカシさんが落っこちていったのだ。

 ベッドの上と下で二人、時が止まったかのように動かなかった。真顔で見つめ合う。一分程度はそうしていただろうか。突然、電源が入った機械のように、カカシさんが立ち上がり、ベッドに乗り上がる。そして特に何も言うことなく、俺を抱きしめてキスをした。
 俺は、あれは幻だったのかもしれない、と思った。
 なにせ初めてのセックスでとても緊張している。幻の一つや二つ見ることもあるだろう。うん。

 ゆっくりと優しく押し倒され、裸の胸にキスされる。うわ、と声を上げそうになった。こうして下になって触れられ、突然、抱かれる、という実感を持ったのだ。
 緊張で、どうすればいいか分からない。皮膚の薄いところを撫でられてビクついたりする以外、動けなかった。もうカカシさんにお任せするしかない。俺はまな板の鯉。お願いします、シェフ……もといカカシさん!
 決意を持って、身体を明け渡すと、次第に愛撫は下半身へと移っていった。
 腰を撫でられ、足を広げられ、遂にカカシさんの手がそこに――

 と、思った時、「ギャッ」という声が聞こえた。
 何事かと見やると、カカシさんが手からローションをちょっとした噴水のように噴き上げている。
 逞しい下腕に筋が浮いていた。どうやら加減を間違えてボトルを力いっぱい握りしめたらしい。上忍の腕力で。それはそうなる。音だけはちょっとエグめのAVみたいだったのに、エロさとは程遠い絵面だ。
 どう反応していいか迷っている俺に対して、カカシさんは平然とした顔だった。意図は分からないが、わざとだったのだろうか。ふー、と軽く息を吐くと、何事も無かったかのように、ベッド下からもう一本ボトルを取り上げた。何本あるんだろう。
「慣らしますね」
「あっお願いします」
 カカシさんの様子が何かの検査技師みたいに事務的だったので、俺もふわっと軽い気持ちで股を大きく開いて見せた。
 しかしなかなかどうしてすごい格好だ。
 これはちょっと恥ずかしいかも? と思うか思わないかする内に、尻の間に指が触れる。

 途端、
「――ヌワッ」
 と、なんだかバカみたいな野太い声が出てしまった。
 色気がなさすぎて呆れられただろうか。ちらっとカカシさんを窺うが、ちっとも気にしていない様子だ。
 ほっとして尻の方に集中することにした。
 カカシさんは濡れた手でそっと穴を撫でている。すごく、すごくヌルヌルする。当たり前だ。ほぼほぼ辺りに零れたとはいえ、ローションボトル一本使っている。
 たまにヌルっと指先が自然に入り込んできたが思ったより嫌じゃない。痛みもない。ヌルヌルだからか。
 だがそれがもっと深く、ずぶっと押し込まれた時は、違和感がすごかった。
 俺は抑えきれず、声を上げていた。
「――グヌゥッ!」
 俺、今、グヌゥッって言った。戦闘中に腹に一発当てられた時の声だ。
 そりゃあもう色っぽいなんてもんじゃない。
 さすがに萎えるだろ……と申し訳ない気持ちでカカシさんを見る。
 だが、こちらも戦闘中みたいに真剣そのもの、必死の形相で俺の股ぐらを注視していた。色っぽいなんてもんじゃなかった。
 何だこれは。いつから俺達は戦っていたのだ。セックスしていた筈なのに。

 俺が混乱する内にも尻の開拓は進んでいく。
 一度抜かれたと思ったら、太くなって戻ってきた。指が増やされたのだ。
 またしても思わず声が上がる。
「――ぬんッ……!」
 待て待て、ぬんッじゃないんだよ、ぬんッじゃ、俺。
 もっとこう、あるだろう他に。色っぽいやつが。セックスしてるんだから。多分、あんっ、とかだ。一文字でえらい違いじゃないか。
 カカシさんは尻だけでなく、前にもちゃんと触ってくれて、俺はしっかり勃起している。ヌルヌルで気持ちいい。なのに尻のインパクトの方が強く、喘ぐことなく、どうしてもぬんッと言ってしまう。
 事に及ぶ前、カカシさんが目隠し用の術と共に、消音の術もかけていたっぽいが、これじゃお隣さんに声が聞こえてしまったとしても、筋トレか組手でもしていると思われるだろう。消音要らずだ。まぁそれならそれで安心だが。

 なんてことを考えているうちに、いつの間にか慣らし作業は終わったらしい。指が引き抜かれ、カカシさんは、ちょっと……とか言いながら背を向けた。
 ゴムを着けているらしい。
 らしい、が、なかなか戻ってきてくれない。
 そういえば俺ばっかり準備されて、カカシさんの方に何もしてあげていなかった。まさか勃ってないのか。さっきまでカカシさんの股間がどうだったか、余裕がなくて気にしていなかった。まな板の鯉だって、もっと調理人の方を見るだろう。俺というやつは鯉以下だ。イルカなのに。
「カカシさん、あの、俺、舐めたりとか、します?」
 もちろんやったことはない。思わず言ってしまっただけだ。実際できるか自信もない。しかしカカシさんがここまでしてくれて、こちらだけ甘っちょろいことは言っていられないだろう。できるかできないかじゃない、やるんだ。
 カカシさんは背を向けたまま、しばらく何も言わなかった。そしてぴくりとも動かない。変なこと言ったかな俺、と不安になる頃、
「…………いえ、結構」
 カカシさんはさらりと言って、ゆっくり俺の股の間に戻ってきた。
 良くわからないが、ちらりと見ると、カカシさんのナニはちゃんと勃っている。よかった。じゃあ俺の不慣れな口淫はそりゃ必要ない。
 カカシさんが俺の脚を掴み、広げた。
 もう羞恥もくそもない。産まれて初めての経験にいっぱいいっぱいで、全てが麻痺している。えいや、っと自分からも股を開いた。
 いよいよ――
 と思ったが、予想していた衝撃は、全然訪れない。
 なんだ? と顔を上げる。

 股の間では、目を瞑ったカカシさんがガタガタ震えていた。
 あれ、地震かなと思って、天所の照明にぶら下がった紐を見上げた。揺れていない。
「えっ大丈夫ですか? なんか震えて……」
 俺は慌てて訊ねた。急病かと思ったのだ。
 しかし、カカシさんは若干血走った目を見開いて、息を荒げて言った。
「武者震い、ですッ」
「なるほど」
 もうそう言うしかない。
 やっぱり戦ってる。俺達。と思った。

 カカシさんは、再度目を閉じた。そして今から一太刀くれてやろう、と精神統一する侍のように深く、長い息を吐く。
「イルカ先生、挿れて、いいですか」
「はい! どうぞッ」
 俺は元気にお返事した。こうなってくるともう、某がお相手仕る、という心持ちだ。
 いざ尋常に勝負……!

 ぬる、と局部にカカシさんのモノが擦り付けられ、そして――
「――オ、ワ……オワワワワッ」
 俺の声である。
 声が、抑えられない。耐えきれないのだ。この色っぽくない声が。もう本当にごめんなさい。謝ろうとして、股ぐらを見る。
 カカシさんは――またしてもガタガタ震えていた。一体何故なんだ。
 ガタガタ震えるナニが尻に押し付けられる、すると俺はオワワッと叫ぶ。
 かたやガタガタ、かたやオワワワ。
 なんなんだ、この状況は。

 ――もう、だめだ、限界。
 俺はもう耐えきれず、吹き出して笑った。今までも結構可笑しかったのが溜まりに溜まっていた。勃起しながらここまでゲラゲラ笑えることを初めて知った。
 カカシさんがむっと唇を尖らせる。ちょっとかわいかった。
「んもうっ、イルカ先生、真面目にやってよ」
「す、すいません。ふ、ふふふ」
 カカシさんには怒られてしまったが、笑ったのが良かった気がする。
 お互いに目に見えて緊張がほぐれ、再度挑戦すると、嘘みたいにするっと挿入ってしまった。

 一本以上使ったローションが、ぐちゅぐちゅと、とてもセックスっぽい音を立てる。
 しかし俺の方ではやはり、突き上げられると再びぬんッと言い、引き抜かれる時はホゥォッとか言っていた。痛くないのは幸いだったが、色っぽさは皆無だ。
 これでいいんですか、カカシさん! と肩を掴んで揺さぶって問い詰めたかった。だが今は一応揺さぶられる方なので我慢した。

 だが、俺のバカみたいな声を聞きながらも、驚くべきことに、カカシさんはちっとも萎えない。
 あまつさえ、かわいい、と囁く。ゆっくりと抜き差ししながら、耐えるように時折ぎゅっと瞼を閉じていた。
「ッはぁ、イルカ先生…かわいい、すごいよ、きもちいい…あぁ…」
 カカシさんのがよっぽど色っぽい声をあげてくれる。
 そんな低く掠れた声を何度も耳に注ぎ込まれて、次第に変な気持ちになってきた。かぁっと身体が熱くなり、下腹が重くなる。
「あっ、カ、カカシさん……カカシさんっ」
 名前を呼ぶたび、どんどん全身が熱くなっていく。カカシさんを呼んでいると、例の自分で言ってて萎えるような声が出なくなった。
「イルカ……!」
 カカシさんが切なげに言い、上体を倒して俺を抱きしめた。
 勃ちあがった俺のモノが、カカシさんの固く深い腹筋の溝で擦れる。事の始め頃に噴き上げたローションがここにももちろん垂れていたので、すごく気持ちがいい。
「ん、あ、カカシさん、もっと」
 快楽を求めてカカシさんに縋りつき、腰を揺らす。肩に顔を埋めたカカシさんが、無言でこくこくと頷くのを感じた。
 長いストロークで体内をカカシさんが行き来する。同じだけ俺のも擦れて快感が溜まっていく。
 だが一番効くのは、カカシさんの声だった。耳元で何度も何度も俺の名を呼び、合間にうわ言のように、すごい、と囁き続ける。
 同じリズムで、同じだけカカシさんを呼び返す。身体の中も外も熱い。カカシさんの熱でいっぱいになっている気がする。

 すごい、と俺もふと思った。
 だって、今、カカシさんと一つになってる。
 そう分かった瞬間――唐突に、ぶわりと体中の熱が膨らみきって、弾け飛ぶ。
 変な声はあげなかった。声も出せず、気がつくと激しく射精していた。


 はぁはぁと荒い息が聞こえる。俺と、カカシさんの分の。
 俺が出してすぐ、カカシさんもイってくれたのだ。ゴムを処理した後、俺の隣に寝転がった。
 どんなに任務が立て込んでいる時でも見たことがないほど疲れ切った様子で、ぐったりと身体を投げ出している。そして俺も同じようなものだ。
 だからつい、
「おつかれさまです……」
 と、言ってしまった。
「うん……せんせも、おつかれさま……」
 カカシさんも自然に、そう言った。
 これじゃ、任務終わりだ。
 やっとセックスらしいことをしたのに、今度は受付みたいになってしまった。

 ほんと、なにこれ。
 再び笑いがこみ上げる。今度はカカシさんも、うふふと笑いはじめた。
 二人で大笑いしながら、抱きしめ合う。
 汗みずくの肌がしっとりと触れ合って、正直今の今までやっていた大半の行為より気持ちよかった。
 セックスとして正しいのかどうかは分からないが、ともかく楽しい時間だったなと思った。




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