イルカが初めてサンタクロースを見たのはアカデミーに入学した年だ。
アカデミーで新しく出来た友達に「サンタなんかいない。プレゼントは親が置いてくれるんだ」と言われ、ショックを受けた年だったから良く覚えている。
イルカは、そんな筈はないと思いながらも、クリスマスの夜、一晩中寝ないで真偽を確かめることにした。クリスマスの日だけは必ず鍵を開けておく窓に意識を集中しながら、布団を頭まで被って眠ったふりをしていた。しかし、そのうち、うつらうつらしてしまい、気付いた時、枕元を見ると、緑色の包装紙に包まれた四角い箱が置いてあった。プレゼントは嬉しかったけれども、“親が置いている説”を否定できず、イルカは悔しく思った。
そして、しょんぼりしながら、ふと窓の外に目をやった時――そこにサンタクロースがいたのだ。
暗くて良く見えなかったが、電柱の上に座り込んでいるのが見えた。黒いマントを着ていて、光る銀色の髪だけが暗闇に浮かんでいた。
赤い服でもなかったし、太ってもいなかったが、イルカは彼がサンタだと思った。イルカが気付いた途端、かき消えるようにいなくなってしまったからだ。
何故だかは知らないけれど、サンタクロースは子どもに見られないようにするものである。イルカはすぐに必死で窓に張り付いて彼の行方を捜したが、どこにも見当たらなかった。気配さえ、まるで魔法みたいに消えていた。だからイルカは彼がサンタクロースだと確信した。

それからサンタクロースは毎年イルカの元へ来た。
色とりどりの包装紙に包まれたプレゼントが必ず枕元に置いてあったし、時には窓の外から視線を感じたり、微かに誰かがいたような気配を感じることもあった。
視線や気配は、いつもとても優しくて、イルカは見守られているような気分になった。プレゼントより、その方が嬉しくなった。
だから、多分、サンタクロースの本当の役目は、プレゼントを渡すことじゃなくて、毎年子ども達が元気かどうか見回ることなんだと思った。

九尾の事件の後、両親が死んでも、サンタクロースは来てくれた。
初めてクリスマスを一人で過ごし、寂しさを抑えきれずに泣いて眠ったイルカがふと目覚めると、彼が部屋の中にいたのだ。慰めるようにイルカの額を撫でてくれていた。
しかし驚いてイルカが目を開くと、サンタはすぐにかき消えてしまった。
見回しても気配はなく、夢かとも思ったが、額に触れた指の感触ははっきりしていた。冷たくて固くて、しかし優しい指先を、イルカは忘れられなかった。

その年からは、枕元に何か物質的なプレゼントは置いていなかったけれど、サンタは必ずやって来て、イルカの頭を撫でてくれた。
両親がいなくなっても、変わらず見守ってくれている人がいるということは、イルカをとても勇気付けた。多分これからは、これがサンタクロースからのプレゼントなのだと思った。
だから、イルカは、昔、「サンタなんかいない」と言った友達に、サンタは本当にいる、と主張した。プレゼントは貰ってる、ちゃんと見守ってくれているんだから、と。
そいつは実は、幼い頃に大戦で両親を亡くしていた奴で、枕元にプレゼントが置いてあったことがなかった。サンタの存在なんて、一度も信じたことがなかっただろう。
九尾で両親を失って、同じ状態になったイルカがまだそんなことを言ったものだから、そいつは笑ってイルカを馬鹿にした。しかしほんの少し嬉しそうな顔をしているような気がした。
多分、そいつも誰かに見守られていると感じることがあったのだと思う。

下忍になった年に、イルカはサンタクロースにプレゼントを渡すことにした。
任務で貯めたお金で、手袋を買った。ふわふわでもこもこの温かい、白い手袋だ。撫でてくれるサンタの手が、いつもとても冷たかったので、これを着けてその手を温めて欲しいと思ったのだ。
以前までイルカへのプレゼントが置いてあった枕元に、それを置き、手紙を添えた。手紙には『サンタさんへ。いつもありがとう。プレゼントです。貰ってください』と書いた。
しかし、いつも通り頭を撫でに来てくれたサンタは、イルカのプレゼントを持っていかなかった。夜、眠った振りをしながら様子を窺っていたら、ちゃんと手紙を読んだような気配がしたのに、朝になって見ると、プレゼントはそのまま残されていたのだ。

イルカは悲しかったが、白い手袋は次の年にも置いておいた。
手紙も添えた。今度はサンタという名前は書かず、毎年来てくれる人へ、とぼかして書いた。サンタだと気づかれるのがまずいのだと思ったからだ。
そうしたら、今度は貰っていってくれた。
いつものようにイルカの頭を撫でた後、手紙を読む気配がして、手袋の入った袋を開ける音がした。それから小さな低い声で、「ありがとう」と聞こえた。
翌朝、枕元を見ると、ちゃんと手袋は無くなっていた。

次の年からサンタの手は冷たくなかった。
いつも手が冷たくてびっくりして起きていたのに、今度はふわふわもこもこの柔らかい感触が気持良くて起きるようになった。サンタはちゃんとイルカのプレゼントを着けてくれていたのだ。 イルカは目を瞑ったまま、嬉しくて少し笑った。

これがいつまでも続くものだと思っていた。
しかし中忍になった年、任務と教師になる夢のために、実家を出てアパートへ越すと、サンタは来なかった。
家が変わってもサンタなのだから分かるものだと思っていた。だって、そうじゃないか。世界中の子ども達にプレゼントを渡して、見回っているんだから、何処にいたって探し出してくれるだろう。
だがサンタは来なくなった。次の年も次の年も。
家が変わったからなのか。それともイルカが大人になったからなのか。理由は分からない。ただもう見守ってくれる誰かはいないのだと思った。

それから十年程経ち、イルカは大人になり、夢を叶えてアカデミーの教師になった。
お節介かもしれないが、アカデミーの生徒でクリスマスプレゼントが貰える望みがない子に、こっそりとプレゼントを渡すようになった。自分が子どもだったあの頃、見守ってくれたサンタクロースの存在がどれだけ励みになったかを思うと、そうせずにはいられなかったのだ。

プレゼントを枕元に置く瞬間、サンタクロースはいないのかとしみじみと思う。
イルカが子どもだったころのように、ナルトを見守ってくれるサンタクロースはいないように見えたからだ。
きっと都合の良い夢物語だったのだろう。サンタクロースも、見守ってくれる人も。イルカが見たものは、信じたものは、全て、ただの幻だったのだ。そう思った。


それが覆されたのは数年後だ。
ナルトが下忍になり、その担当の上忍師に会った時だ。
見たことがある、と感じた。ひどく懐かしかった。銀色の髪、薄い青色の瞳、握手をした指先の冷たさ――昔見たサンタと同じだったのだ。

確信があったわけではない。しばらくは半信半疑だった。だって、ずっとサンタだと思っていたのだ。それが、どうして里の誉れたる写輪眼がイルカの家に毎年やって来たりするだろう。意味がわからない。

意味がわからないといえば、出会ってからのカカシの行動も意味がわからなかった。
イルカが行くところ写輪眼有りと言われる程、カカシはイルカを追い続けたのだ。あまつさえ、無骨な男であるイルカに「好きだ」などとのたまった。
イルカは当然本気にしなかった。カカシは気にせず、飄々と付きまとい、イルカの家に入り浸った。

しかし、朝晩が冷え始めた晩秋のころ、イルカは全てを信じた。
チャクラ切れ寸前のカカシを、イルカの家の屋根の上で見つけて、そのぼろぼろさを見ていられずに家に引っ張り込んだ時だ。
疲れ切ったカカシに、不意に頭を撫でられた。それはいつもそうしていたみたいに自然な動作で、そして、イルカの記憶にあるサンタの指の感触と同じに思えた。
それから、ふと見えたカカシのポーチから覗いた、白いふわふわの布地。それは、イルカが下忍になった年贈ったあの手袋にそっくりだった。
まさか、と思って、こっそりカカシが風呂を使っているときに確認すると、それは年季の入った、今のカカシには少々サイズが小さいであろう、ふわふわでもこもこの柔らかい手袋だった。

「何でもします。アナタが望むことを、何だってします」
カカシはその夜、そう言った。

この人の言葉に嘘はない。イルカはそう思った。
だって、本当に、そうしてくれていたのだ。
イルカが望むことを、見守っていて欲しいという願いを、ずっと、叶えていてくれていたのだ。

それからイルカはカカシを受け入れた。
今年のクリスマスは、窓越しでもなく、眠ったふりをしなくても良い。夜中ずっと、一緒にいられる。

サンタクロースはきっともうイルカの元へやって来はしないだろう。
何故ならイルカはもう大人になったのだし、そしてプレゼントはもう貰っているからだ。


ところで、先日、とても驚くことがあった。
イルカがアカデミー生のために用意した、サンタクロースの絵本を見て、カカシが、「この赤い服着た不法侵入のおっさんは何なの?」と聞いてきたのだ。
つまり、カカシはサンタクロースのことを知らず、毎年毎年イルカの家にやってきては、イルカにサンタだと勘違いされていたのだった。
カカシ自身が、“黒い服を着た不法侵入のお兄さん”だったというわけである。

可笑しくて可笑しくて、イルカは詳しくは話さず、「幸せを贈ってくれる人です」と教えた。嘘は吐いていない。こうやって手放しで笑える時間を、相手を、贈ってくれた人だからだ。

少ししたら全て話そうと思ったが、カカシの様子を窺うと、カカシは、「なら、俺のところにも来てくれたんだーね」と言った。
それが余りにも嬉しそうで、そして疑いがなかったものだから、イルカは何も言えず、ただカカシを抱き締めた。
ずっとイルカと一緒に、クリスマスを過ごして、サンタクロースを信じていてもらおうと思った。







全ての人に。