彼は普通の男だった。極普通の、いや、ともすれば男臭いと言われてしまう位、紛れもない男。
しかし、カカシはその男に惚れてしまった。

カカシは誠実に対応した。
ずっと騙し合う忍びの世界で生きてきたから、せめて惚れた相手には嘘は吐くまいと思った。
何しろ初めての恋。大事に大事にしたかったのだ。自分の気持ちも、相手のことも。
だから自分に正直に、でも彼の嫌がることは絶対にしないように、細心の注意を払うことにした。

そんなこんなが功を奏したのか、カカシと彼は付き合うことになった。
ところで本来異性と交際すべきが、同性とそうなった場合の、違いというものは何だろうか。結婚できないこと。世間から偏見の目で見られること。関係を公にできないこと。細々とした違いはもちろん他にもあるだろうが、普通ぱっと思いつくのはこの位だろう。
しかし、実際問題として、カカシが気にしたのはただ一つだった。
SEXだ。
この場合、“性別”と訳すのではない。当初から“男同士”であることは、カカシは全く気にしなかった。
となると、どう訳すかは分かるだろう。そう、性行為である。
男女の場合、役割は元より決まっている。しかし男同士となると、当人で決めなくてはならないのだ。

全く悩む所だったが、お付き合いがある程度の期間を経た頃、カカシはともかく、この恋に身を落とした時から決めた、原則に従おうと思った。
つまりこうだ。『嘘は吐かない。自分と相手の気持ちを大事に、自分に正直に、でも嫌がることはしない』。

だから、ある日良い雰囲気の後、彼に背中を支えられ、優しく押し倒されても、動揺はしなかった。
男臭いと言われる彼のこと、こうなるのは予想済みだ。そしてカカシには付き合う前から考えてきた原則と、心構えがあったのだ――




「カカシさん…」
そっと押し倒して、低く囁く。
精一杯、明らかな色を込めてみたのだが、カカシさんは分かっているんだかいないんだか、じっと俺を見上げただけだった。
行為自体は嫌がられてないと思う。そうでなければ、こうなる前に雰囲気を変えるなり逃げるなりしていただろう。それに、情けない話だが、相手の協力なしには俺如きがこう易々と上忍を組み敷ける筈がないのだ。
だとすれば、行為の役割か。俺は自分が上だろう、と頭から思い込んでいたのだが、カカシさんは違ったのかもしれない。それを言い出せないのだろうか。
色々考えていたから、たっぷり数分は経ってしまっていただろう。しかし変わらずカカシさんはじっと俺を見上げ続けている。一体、何を考えてるんだアンタ! この状況を!
「あの、カカシさん? ……その…良いんですか?」
叫び出して問い質したい気持ちを抑え、ともかく、確認してみた。
すると、カカシさんは不意ににっこりと笑った。
「実はね、イルカ先生は男らしいから、多分こうなるだろうなと、ずっと思ってました」
「え、嘘…」
輝くような笑顔と、“ずっと”という言葉に驚いて、思わず間抜けな言葉が出た。だって、カカシさん綺麗に笑うし、俺とのことをずっと考えてたってことだし、しかも“こうなる”ことを認めてくれたんだぞ。つまりこの状況、ひいてはこの体勢、然るに俺が上、で良いってことだ! そりゃ驚きもする。そんなあっさりしたもんで良いのかと疑うだろう、普通。
「あのねぇ、イルカせんせ。俺、アナタを好きになってから、嘘は吐かないって決めたの」
ぽかーんとしていた俺に、カカシさんは目を細め、仕方ないなぁという顔をして言った。
言われたこともその顔も実に感動した。
「カカシさん!」
俺は最高に盛り上がって、というより舞い上がって、必死にカカシさんを抱き締め、頬に唇を押し付けた。カカシさんも抱き締め返してくれて、俺の首筋を半ば吸うように情熱的にキスしてくれる。
それからお互いに脱がせ合って、その合間に肌に触れてみたりなどしている頃にはもう、俺はすっかりカカシさんの美しさに参っていた。やっぱり俺が抱く方で正解だと思った。俺なんてなんかドシッとしてて全然綺麗じゃない。カカシさんはしっかり筋肉がついてるけど、こうスラッとしてて、生っ白くて、ああもうとにかく綺麗だった。
とーちゃん、かーちゃん見てる? 俺、こんな綺麗な人と付き合ってるの!
思わず天国の両親に報告などしつつ、そろそろのっぴきならなくなってきた部分へと手を伸ばした。カカシさんのそれを緩く握り込んで擦ると、カカシさんは小さく呻いて、俺のも触ってくれる。ちょっと遠慮がちな手付きが逆に良い。
と、余裕で思っていたら、しかし急に爆弾を落とされた。
「ね、イルカ先生の、舐めたい…」
言って、カカシさんは横になったままもぞもぞとずり下がった。四つん這い状態の俺の股間を下から、ということだ! 慌てて、カカシさんが下がったのと同じ距離だけ俺もずり下がる。恥ずかし過ぎる。しかも、そんなこと想像しただけでもマズイ。瞬殺されてしまいそうだ。
「そそそそそ、そんな駄目です」
「どうして駄目なの? 嫌? 俺にされるの気持ち悪い?」
見下ろすカカシさんは何だかいつもより弱弱しく思える。そんな人がひどく悲しそうな声を出すものだから、俺はとんでもなく酷いことをしてしまった気になった。俺はなんてことを! 傷つけてはいかん! この人は俺が護らねばならん!
「気持ち悪い訳ないじゃないですか!」
庇護欲に鼻息を荒くし反論すると、カカシさんはにっこりと笑ってくれ、
「じゃあ良いよね」
そう言うなり素早くずり下がり、俺のブツをぱくりと咥えた。
瞬間余りの衝撃で、「ふぎゃっ」と色気も素っ気もない悲鳴を上げてしまう。慌てて唇を引き結び、股座を覗き込むと、カカシさんが不安そうに、上目遣いでこちらを窺っていた。違う! 断じて気持ち良くない訳じゃないです! むしろ気持ち良過ぎてもう出そうです! とは格好悪くて言えない。
「か、カカシさん、無理しないで下さいね」
本音を隠し、必死に言う。内心は『もっ、もう離してくれぇぇぇ』であるが。…男は辛いのだ。
すると内心の思いの強さが通じたのか、カカシさんは口を離した。
しかし、良かったぁと思ったのもつかの間、すぐに唇を寄せてきて、
「俺は大丈夫。だって、イルカせんせに気持ち良くなって貰いたいんだよ…」
と、呟いた。
ああ、とーちゃん、かーちゃん! 俺、こんなヤラシイ……じゃなくて、優しい人を見つけたよ!
そろそろかあちゃんは見ないで! とうちゃんならまだマシだけど! と恥らいながらも、報告は止められない。そんなことを考えていないとすぐにでもイってしまいそうだった。
再び咥え込んだカカシさんのテクは凄かったのだ。昔若い頃勢い余って玄人のお姉さんにして貰ったことがあるが、それより凄い。
「ここも…」
そう言って、袋の方まで舐めてくれたりする。
「気持ち良い?」
聞かれて、俺は無言でコクコクと頷いた。良いに決まってる。どんな声を上げてしまうか分からないから、口も開けない位だ。
本当にカカシさんは何をさせても器用だな。流石の業師。千一つ目の技として、寝技も加えると良い。気を散らすために、そんな阿呆なことを考え続ける。
「こことかも、意外とイイんだって」
今度は何だ、と思ったら、カカシさんは袋から更に下がって、ケツまで舌を伸ばしてきた。
「ギャアッ!」
流石に今度こそ本気の悲鳴を上げた。そんな所、舐めるべき所じゃない。断固として拒否だ。
「嫌…? 俺…せんせに喜んで欲しくて研究したのに…」
しかしそうまた悲しそうに言われてしまうと、あっさりと一転した。
「ごごごごめんなさい! 俺、嬉しいです!」
嘘ではない。カカシさんが俺を思ってこんなことを研究までしてくれたのだ。嬉しくない筈がない。
「良かったぁ」
そう嬉しそうに言って貰えるなら、俺は何だってやる。カカシさんが嬉しいと、俺も嬉しい。カカシさんがすることなら、何だって受け入れられる。そんなあらぬ所を舐められてさえ、気持ち良いような気がしてきてしまう位だ。
「指入れたらもっとイイかも。試しても良い?」
ああ、全く可愛い人だ。こんなことまで研究熱心で。俺を気持ち良くしてくれようと色々考えてくれて。こんな恋人を持てて、俺は幸せ者だ。とーちゃん、かーちゃん、色々あったけど俺、今凄い幸せです。
「で、ここいら辺にイイとこがあるらしくって。あ…辛い? どうしよう、下手でごめんね」
そんなことない! そりゃ何だかちょっと辛いかも知れないけど、それが何だ! カカシさんが一生懸命頑張ってくれてるんだから!
俺は幸せ者だ!
「指、増やした方が多分気持ち良いから…」
俺は幸せ者……
「もっと太くて長い方がイイよね?」
俺はしあわ……
「あぁ…イルカ先生っ…」
…………って、アレ?

気が付くと、俺は、組み敷いていた筈のカカシさんに逆に組み敷かれ、揺さ振られていた。

もはや理解不能な状況の中、俺の脳裏では、悪代官に騙された町娘が『あ〜〜れ〜〜』と言いながらくるくる回され、椿の花がぽたりと落ちる――そんな映像が思い浮かんだ。
もちろん言うまでもなく、その悪代官は、カカシさんの顔をしていた。





彼は普通の男だった。極普通の、いや、ともすれば男臭いと言われてしまう位、紛れもない男。
しかしカカシは、その男を抱きたかった。

カカシは誠実に対応した。
ずっと騙し合う忍びの世界で生きてきたから、せめて惚れた相手には嘘は吐くまいと思った。
大事に大事にしたかったのだ。自分の気持ちも、相手のことも。
だから自分に正直に、でも彼の嫌がることは絶対にしないように、細心の注意を払うことにした。

そんなこんなが功を奏して、カカシは望み通り、彼を抱くことに成功したのだった。

「騙されたなんて人聞き悪いね〜。ちゃーんと嘘は吐いてなーいデショ?」








とーちゃん、かーちゃん、エロを書くつもりがギャグになっていたのは何故でしょうか。