本日は皆でお勉強会、だそうだ。
鬼のように大量に出された数学の課題を手分けしてやる為に、勝手に俺の部屋に集まって来ていた。
好きにしてくれと、俺が場所を提供すると、皆最初は真面目にペンを動かしていたのだが……。
「うわ、すげー……」
誰のだか知らないが、そんな声がそこここで発生している。
いつのまにか、皆このように、奇妙に上ずった声で呟きながら、にやにやとテレビを観ていた。
数学は放られ、保健体育の自習になっていたのだ。
テレビ画面上では、一人の女が白い手足をくねらせて、盛大に喘いでいた。
俺はしばらく気にせず、読書に勤しんでいたが、余りにも女の声がでかいので集中できなくなった。結局昼寝でもしてしまおうと、寝転がる。
今更AVなんか観る気はない。もう本物を知ってしまっているし、元々俺は映像より想像派だ。
それに、誰が持ち込んだんだか知らないが、今流れているのは俺としてはハズレだと思う。凌辱物というのはまぁ良いとして、初めっからアンアン言って股開くなんて有り得ない。重要なのは恥じらいだ。激しくヨガってくれるのは嬉しいが、そこに至るまでは頬を染めて、恥ずかしがって、躊躇して欲しい。
巨乳の素っ裸より、着物姿の襟足のおくれ毛に惹かれる。俺は古風な男なのだ。
とかなんとか考えつつ、眠りに落ちようとしていると、不意に周りの友人たちの空気が変わった。
「すげー」という言葉は変わらないが、先程より声色が明るい。
何だろう、と目を開けてみると、テレビ画面には、女ではなく――男がいた。
ゲイAVであった。
「うっわー俺だめ。気持ち悪い」
「まーなー。これは無理だな、さすがの俺も」
「じゃあ持ってくんなよ!」
「いやー、一人じゃ怖くて見れなくてさートラウマになるかもしれないだろ?」
「巻き込むなっつーの!」
友人たちはそんな会話をしつつも、消さずに見続けていた。
画面上では、寝転がった男の股間にもう一人の男が顔を埋めている。
根元を手で刺激しながら、音を立てて棹にしゃぶりつき、もう片手で袋を揉む。さすが同じ男だけあって、あれは気持ちいいだろうな、と思える的確な行為だ。
「女よりイイって聞くよなー」と誰かが言った。
ふーんそうなのか、と俺はちょっと興味が湧いたが、ずっと見ていると、やはりどうも嫌悪感が出てくる。そもそも男女のだって生々しいのに、男同士となると間違いなくグロテスクだ。
俺は目を背け、昼寝を再開しようとした。
しかし、そうできず、俺は画面を見つめ続けた。頭の中でちょっとした変化が起きていた。
『――ぅくッ…』
寝転がった男が声を上げた。男の両足が開かれて、尻にローションを垂らされ、指を突き入れられたのだ。探るように手を動かされると、男は小さく喘いだ。きつく歯を食い縛っているようなのだが、声は止まらない。
『…ん、ぁ、…ぅう…――』
耐えようとして、しかし耐えきれず、蕩けた表情を見せる。
その顔を、俺は、ある人に重ね合わせていたのだ。
「――ッ!」
俺は立ち上がって、テレビのスイッチを切った。
それから友人たちを蹴飛ばして帰らせる。友人たちは初め文句を言っていたが、気持ち悪いものを見せたから怒ったのだと思ったらしく、大人しく帰って行った。
しかし真実は違う。
俺は彼らが出て行った直後、自分の前を寛げた。もう既に固く張って、濡れていたそれを夢中で扱く。
そうしながら頭の中では、ある人のペニスを扱き、尻を弄り、快楽で蕩けた表情を覗きこんでいた。
その人とは――イルカ先生だった。
イルカ先生とはこの春に出会ったばかりだが、とても気になる人である。今まで会ったことのないタイプの人で、笑顔がすごく良い。だから授業の時や廊下ですれ違う度に、目が離せなかった。
しかし男だ。好意を抱いていたとしても、“そういう意味”ではなかった筈だ。
そうは思っても、頭の中でイルカ先生を激しく犯しながら、自身を強く扱くのを止められなかった。
先生が顔も足も尻も全身を淡く染めて、耐えながらも押し殺せなかった小さな声を漏らす。そんな想像に、腰が震えるほど欲情した。
『…ぁ!…ああッ――はた、け…!』
「――イルカ先生ッ!」
想像の中で先生がそう言って果てた時、俺も彼の名を呼びながら射精した。
はぁはぁと荒い息を整えながら、目を開けると、当然イルカ先生はおらず、手の平に自分でも驚くほど大量の精液がまき散らされているだけだった。
数瞬後、冷静になると、もちろんちょっとした後悔もあったが、しかし、もっと重要なことに気付いた。
「ああ、俺って……」
今まで女にだって本気になったことがなかったから、分からなかったけれど。
先生の笑顔が頭から離れなかったり、ちょっと話せただけで嬉しかったり、数日会えないだけで職員室を覗きに行ってしまったりしたのは――
「好きなんだーね…、先生が」
認めてしまえば、納得だった。
下衣をずり下げて半ケツのままという間抜けな格好だったが、とにかく俺は心身ともにスッキリして、ちょっと笑った。
高校生カカシ、AVの趣味が親父臭いですか。そうですか。
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