俺は一体何をしているんだ……
そういう思いは、ずっとあった。
けばけばしい看板の下、鮮やかなネオンに目を焼かれた時も、オカンのほっかむりみたいなのを着けたイケメンに引きずり込まれるようにして店に入った時も、コースを選んだ時も、震えながら写真を指差した時も、常に、心の奥底でそう思っていた。
だが、俺も男である。
童貞はもういい加減捨てたい。その一心でいずれの時にも耐えた。
そして今、ガラス張りの窓の向こうで、美人が風呂の用意をしている姿をぼんやりと眺めている。
美人は、『カカシ』さんと名乗った。ちょっと奇妙だが、源氏名だろう。受付の写真で見た時の、過剰な期待をしてはいけない、という俺の思いを、良い意味で裏切ってくれた。すらっとした長身の美人である。あんまり美人なので俺は舞い上がって、「お湯張りますねー」と言われた時に、「いや俺がやりますんで」と言ってしまった。もちろん笑われた。
「どうぞー」
風呂からカカシさんのハスキーな声が響いてきたので、移動する。俺が湯船に浸かっていると、カカシさんはテキパキと諸々の準備した。揺れる赤い着物が扇情的だった。
その後、噂のスケベ椅子で念入りに、というか、ねちっこく股間を洗われた。当然、勃つ。実は、「触られる!」と思っただけでほぼフルだった。カカシさんはそんな俺が暴発してしまわないようにだろう、棹は避け、椅子の窪みに手を突っ込んで袋周辺を洗ってくれた。勢い余って尻までいっているのが少々くすぐったいが、我慢した。俺はマッサージ屋でも床屋のシャンプーでも、「痛くありませんかー」とか言われても多少ならば「だいじょぶでーす」と言ってしまうタイプなのである。
「じゃ、次はこっちにどーぞ」
言われるがまま、ふらふらと床に敷かれたマットに寝転がる。仰向けにぽわーっとしていると、カカシさんに「まずうつ伏せになってもらえますか」と言われた。またちょっと笑われたようである。
一応俺も、こういった店に来るのも初めてだから、恥をかかないよう勉強はしてきたのだが、やっぱりなんだか良く分からないまま現在に至っている。鍛錬はしているがどうもカッコつかないだらしない身体で、しかもあそこはフルで、ぽわーっとマグロ状態になってしまっても仕方がないのだ。なんたって、もうなんだか良く分からないのだ。
そしてなんだか良く分からないまま、うつ伏せに寝なおすと、「失礼しますねー」となんかトローっとしたものが背中にかけられる。続いて衣擦れの音がし、カカシさんが着ていた赤い着物が、床に放られたのが視界の端に映った。
たぶん、全裸。カカシさん今、全裸。俺は想像上のその姿にすでに興奮しつつ、何をされるのか確認しようと思った。
……いや、この際だ。正直に言おう。おっぱいが見たかった。二次元でも画面越しでもない、おっぱいが見たかった。夢にまで見た、生おっぱいを!
俺は首をこっそりと曲げ、ちらっと見た。
見て、しかし――ギョッとした。
カカシさんのおっぱいは、何というかまぁ控えめに言って「すごく貧乳」と表現できなくも……いや、やっぱりどうだろう? 実際問題それはもう貧乳モノのAVでもお目にかからないサイズで、多分ジャンルとしては『無乳』と言うべき新しい領域だった。ちょっとガッカリした。
しかしすぐに、こんなこと思っては失礼だ、と気付く。自分だってそんなご立派なサイズじゃないくせに!俺の馬鹿! 俺はカカシさんに申し訳ないと、ふわふわおっぱいへの夢を頭から投げ出した。
そうこうしている内に、俺のそこかしこを、カカシさんのそこかしこが撫でてくる。トローっとした液体の所為もあって、カカシさんの温かい肌がなめらかに、いやらしく滑った。あと、ちょいちょい例の無乳……いや、非常に慎ましいサイズの胸が、というか乳首が当たっているのも気持ち良い。これが俗に言う『あ、当たってます!』『当ててんのよ…』という奴なのだろう。とても有り難い。
「きもちいーい?」
カカシさんが言う。慌てて返事をすると、「ふぁい……」と情けない声が出た。
「かーわいい」
呟かれて、赤面する。恥ずかしい。とても恥ずかしいが、もう格好つけても仕方ないだろう。俺は腹を括り、カカシさんに全てを委ねた。
その時だ。
有り得ない感触に、気付いた。
と同時に、有り得ない場所が弄られていた。
「ギャッ!」
俺はつい数瞬前の決意を投げ打って、抵抗した。格好悪いだろう、しかし言い訳させて欲しい。
なんたって、カカシさんが、俺の完全に弛緩した尻を割り開き、肛門に指を突っ込んだのだ。
「なっなに、何? 何なの?!」
「あらら、こっち初めて? かわいー」
慌てふためく俺に、カカシさんは動じない。
「えっ、ちょっと、どういう……」
まさか、そういうプレイなの? それともここ病院だったの? 直腸検査? と混乱する俺に、カカシさんは追い打ちをかけた。
「大丈夫、大丈夫」
すりすりとカカシさんが股座を俺の足に擦り付けてくる。先程感じた、有り得ない感触が、はっきりと感じられた。
俺は、ついに絶叫した。
「ギャアアアアーーー!!!」
間違いない。
――この人、ちんこついてる!
「なんで!?」
「んー? まぁまぁそう硬くならずに。一部分なら硬くて大丈夫ですけど」
「お、オヤジか! あんたオヤジかぁ!」
「もー、年の事は言いっこなし! サバ読むのなんてギョーカイのお約束デショ!」
全力でもがいても、カカシさんはビクともしない。そりゃそうだ、だって男だもの。俺より背も高くて、引き締まった筋肉を持った、男なんだもの。
「ほらほら、きもちいーんでしょ」
カカシさんは肛門に突っ込んだ指を押し進めながら、先程までしていたように、肌と乳首と、あとちんこを、俺の全身に擦り付けた。
「ウワー! 当たってるゥ! 当たってますから!」
「やだなー当ててんですヨ!」
こうして、俺は童貞を捨てに行った筈が処女を奪われ、この日を境に、俺の人生は大きく変わってしまったのだった……