煙草一本吸うのに、アスマは約三分かかる。
もちろん煙草の種類や環境によって誤差はあるのだが、それもおよそ数秒に過ぎない。恐らく無意識の内に調整をしているのだろう。何かの儀式のようにきっかり同じ動作で、時間で、それを行うことは、その独特の香りと共に、アスマの身体に深く染みついている。
「三分待ってよ」
そうカカシに言われた時、アスマは迷わず煙草を取り出した。時計なんぞは無いが、きっちり三分計ってやろうと考えたのだ。
任務に出発する予定だった時間は実はもう過ぎている。それで、集合に来なかったカカシを迎えに来たのである。
わざわざ出迎えてやったというのに、必要以上に待ってやる優しさはアスマにはない。数秒の誤差も出すもんか、とドアが閉められたと同時に、取り出した煙草に火を点けた。
最初の一息を吸うと共に、キン、と小気味良い音を立ててライターを閉まうと、途端に静かな気持ちになる。これもアスマの身体に染みついているもので、吸い込んだ煙の成分の為というよりは、反射のようなものだと言えた。
だから多分、自分は冷静になりたかったのだ、とアスマは思った。時間を計る為もあったが、しかしアスマ自身に、煙草が必要だったのだろう。
閉められたドアに背を凭れる。
このドアの向こう、先程カカシの肩越しに見えた光景が頭から離れない。
趣味の悪い子ども染みた柄のベッドカバーに包まれていた裸の背中。僅か見えただけなのに、それが誰なのか、すぐに分かった。
何故分かったのか、アスマ自身も理解できない。その背中の真ん中には、特徴的な派手な傷痕があったが、その傷を負った経緯は知っていても、実際目にしたことは無かった。だからそれが手掛かりになった訳ではないのだ。ただ、一目見て、分かってしまった。
――ああ、イルカ、お前か、と。
あの背が縦にも横にも今の半分程だった頃を思い出す。
忍術を教えろと纏わりついてきた。
湯治だとかいう爺臭い趣味に付き合ってやった時に、まだ尻が青いと揶揄った。
教師になりたいと少し恥ずかしげに打ち明けてきた。
そしていつも、アスマには到底出来ないような、屈託のない顔で笑っていた。
弟のようだったのだ。近くにいるのが当たり前で、離れても絆は切れないと無意識に感じている、そういう肉親へ抱くような情があった。
そう、思っていたのに――
長く深く、肺の底の底から息を吐いた。嗅ぎ慣れた香りが揺蕩って、アスマに冷静さを思い出させる。
アスマは、残り少なくなった煙草を小型の灰皿に押し付けて、新しくもう一本に火を点けた。
もう三分間、追加してやろうと思った。
ドアの向こうで別れを惜しんでいるだろう二人の為に。
そして、やはりアスマ自身の為――この胸を焦がす不思議な想いを、消化する為に。